日本の活動家が挑む大波

反捕鯨デモ、東京、2014年|写真提供者:海洋哺乳類を守る会

強力な圧力に立ち向かう、イルカ漁や捕鯨に反対する日本人たち。
2015年03月16日ジャパンタイムズ掲載 
ショーン・オドワイヤー
翻訳:高橋百合香

山口たかよ|写真提供者:山口たかよ

山口たかよ|写真提供者:山口たかよ

「日本人の活動家はつらいよ。」日本人の活動家は大変です。特に、捕鯨やイルカ漁の反対活動をしている場合は、難しいようだ。山口たかよさんは、日本のソーシャルメディアでイルカ保護キャンペーンのツイートストームを半年前に開始。それ以来、オンライン上での人権侵害や死の脅迫、ハッキングの攻撃などを受けている。

1976年に発足した、日本の反捕鯨団体の草分けともいえるELSA自然保護の会の辺見栄さんは、和歌山県太地町でのイルカ漁に対する活動に参加した時から、何度か警察の尋問にあっている。また、グリーンピース・ジャパンの活動家、佐藤潤一さんと鈴木徹さんは、日本の調査捕鯨におけるクジラ肉横領疑惑を告発する証拠品として、調査捕鯨船の乗員が不正に自宅に送ったとした鯨肉の小包を運送会社から持ち出して提示したところ、2010年に不法侵入と窃盗で有罪判決となった。

こういった活動家による働きは日本国内では報道されることが少なく、日本の捕鯨やイルカ漁に反対する海外の活動家は、なぜ日本人は立ち上がらないのかと感じている。そこで、日本人の活動家が直面している障壁について言及しよう。

まず第一に水産庁の官僚や政治家、記者、学者、またソーシャルメディアで活動するネトウヨ(ネット右翼)といった層に支持されている捕鯨にまつわるナショナリズムに抵抗することが難しい。共産党の政治家ですら、日本捕鯨の伝統と食文化の保護を求めているのだ。辺見さんが言うように、日本の捕鯨やイルカ漁は「合法的な漁業」である。そして、漁業は重要な存在で、文化的にも大事にされている事業なのだ。なぜなら、海の食物を食べる魚食文化は、日本の食文化アイデンティティの一部であり、食料の確保と同じように不可欠であると考えられているのだ。

何十年も続く外国からの批判に憤りが蓄積し、あたかも外国の活動家や政府が日本の漁業の重要な砦を脅かしているかのように考え「捕鯨の次はマグロ漁が危ない」と言うようになった。調査捕鯨という無駄な官業を続けてきた背景には、水産庁の官僚や政治家や評論家が推進してきた「外と内」という考え方が深く根付いている。それは、文化の違いを強調したり、文化帝国主義だと批判したり、「エコテロリズム」という中傷を多く利用するという形で表れている。

海外の活動家団体の極端なやり方や、一部の人達による人種差別的な発言が、日本人の立場を守ろうと頑なにさせてしまう。多くの日本人はほとんどクジラやイルカ肉を食べないが、外国人の価値観の押しつけに対する批判には共感を覚える。

こういった対立は日本の活動家の在り方を困難にしている。辺見さんはこう話す。「シー・シェパードと繋がりがあると誤解されないように気をつけなくてはならない。」シー・シェパードとは南極海で調査捕鯨船を妨害しようとした海洋環境保護団体で、ポール・ワトソン氏によって設立された。山口さんは、他の日本人に「なぜ海外の活動家による攻撃から日本人を守らないんだ」と言われた。「(太地町のイルカ追い込み漁を通して)日本国民全体を侮辱しているように受け取られやすいことが、太地町の漁師さんたちへの同情を生んでいる。」という。

もう一人、長年鯨類保護に取り組んできた活動家は、外国の活動家の行動に大きな落胆を表した。他の自然保護団体と連合して長年の間、辛抱強くロビー活動を行ってきたのにもかかわらず、外国人活動家の行動が原因となって、「日本政府が私たちとの面談を断る理由となってしまい、今までの努力が損なわれてしまった。」と。

日本の活動家だけがこんな状況にいるわけではない。オーストラリアの活動家も、板挟みに苦労している。オーストラリアのような反捕鯨活動が盛んな国ですら、環境活動家や動物保護団体は、強力な鉱業産業や家畜産業の団体によって、しばしば「非オーストラリア人」とか「過激派」と言われて非難されてしまう。しかし、彼らは世論でその批判を押し返すことが可能だ。なぜなら日本の環境団体とは違い、大きくて十分な資金があり、連携のとれたNPO団体だからだ。寄付をする会員が多く、予算があるため、支持者の拡大やロビー活動、弁護士など能力の高い専門職員を雇うことができる。これらの活動を通して政治家や事業団体、有名人やマスメディアとの信頼と影響力を獲得してゆく。的を射たメディア・キャンペーンをすることで直接的に世論に影響を与えている。

グリーンピース・オーストラリアは2013年度には45,000人の会員がおり、フルタイム・パートと合わせて70人の職員が働き、約15億円の予算があった。アニマル・オーストラリアは、トップの動物福祉団体で、同年、20,000人の会員がおり、22人の職員と、2億7800万円の予算があった。

日本の環境保護団体や動物福祉団体は、人口が多い割に規模が小さい。グリーンピース・ジャパンは2013年度は5,000人の会員がおり、31人の職員、予算は1億9,500万円、同年の日本自然保護協会は15,000人の会員で、25人の職員、予算が2億5,400万円だ。イルカ漁や捕鯨に対する活動を行う団体はこれよりもずっと小さく、一人か二人のスタッフや数人のボランティアがいるくらいだ。そして山口さんのように個人でSave the Blood Dolphins の活動に協力して、イルカ、シャチなど捕獲の悲しい現状を伝えようとする人たちがいるという現状だ。

グリーンピース・ジャパン事務局長佐藤潤一|写真提供者:KYODO

グリーンピース・ジャパン事務局長佐藤潤一|写真提供者:KYODO

なぜ、こんなに規模や影響力に差があるのだろうか?日本のNPO分野を研究している政治学者は、江戸時代の儒教者のスローガンである「官尊民卑」を引き合いに出す。これは、政府や官僚を尊び、大衆を見下すという意味だが、現在までNPOの成長を制限してきた現代日本の国家主義というイデオロギー(観念)を表している。

19世紀後半に伝来し、ヨーロッパをモデルとして採用したこのイデオロギーは日本が近代化する中で定着した。エリート教育を受けた官僚が、経済や社会の目標を決め、政策を行い、産業界やとりわけ大衆は主導権を行使しない立場にしていいと考えられたものだった。哲学者の丸山眞男氏がいうところの、「権利の上に眠る者」に人々はいとも簡単になってしまう。(*権利に甘んじて安心し、行動を起こさないうちにその権利すら失うという意味だ。) 日本の国家主義は、1945年以降にその完全な形となった。

この国家主義が、市民グループの活動を限定的なものにした。政治学者の平田恵子氏やロバート・ぺカンナン氏が説明するように、「理想的な市民グループは、小さく地元密着型で、政府と協力的である」となっている。活動家のグループはその形式にそうそう当てはまらない。1960年代~70年代に環境運動が活発になっていったが、グローバルではなく局地的な問題、例えば水俣や原子力などだけに焦点を絞っていた上、当時のほとんどの日本人は経済成長と経済的な豊かさを優先課題とした政府の政策を受け入れたため、環境運動は下火になっていった。

1995年の神戸大震災後、偶然起こった数々のスキャンダルが原因で政府への信頼が揺らいだと同時に、ボランティア活動に対する国民の支持が急増した。世論による圧力は法人登録をするための資金条件を下げ、官僚による監督を合理化し、登録できる組織の範囲を広げたNPO法が1998年に出来上がることに繋がった。

2011年3月11日の東北震災以来、登録されたボランティアのNPOはその真価が認められてきている。この記事の著者が共同理事をしているNPOもそうだ。ところが、活動家団体は、いまだに国家主義者の先入観や官僚主義の偏見に直面している。グリーンピース・ジャパンの例にもあるように、捕鯨やイルカ漁といった愛国主義者が敏感になる問題だと、なおさら手痛い思いをすることもある。

NPO法人登録することで資金調達環境や名声が得られて、時には税金控除ができる場合もあるのに、多くの団体はそれを避けている。以前はNPO法人に登録していたグリーンピース・ジャパンは、2010年から「一般社団法人」として登録している。佐藤潤一さんは私にこう説明した。「グリーンピースが求める「権力の影響からの独立」が可能になり、より自由に活動できる法的地位だからです。」

辺見さんもELSAのNPO法人登録を申請しなかったが、それは政府の規制を受けたくなかったからだ。他の活動家は、NPO法人登録は面倒なことが多いと言う。また、クジラやイルカの漁に反対している日本の団体はたいてい小さく、ばらばらなので、NPO法人登録をするための人数基準を満たすことが難しいだろう。

懐疑的な読者はこの状態は何の問題もないと思うかもしれない。規模が大きく資金の多い社会派NPOは、その大きな支持者層によって、他の国民が望まない影響を政策に与えることもある。なんと、アメリカのライフル協会もNPO法人だ。日本のイルカやクジラ捕獲を反対する活動家が、他の日本人の考え方に変化をもたらすことが出来ないのは、仕方がないのかもしれない。

しかし、別の見方もある。活動団体をパワフルだが誠実な野党として見ることもできる。捕鯨やイルカ漁そして漁業に対する世論と外交と政策を方向付ける中で、日本の水産庁と捕鯨ナショナリズムのもたらす偏った影響に対しバランスをとる野党だ。

反捕鯨デモ、東京、2014年|写真提供者:海洋哺乳類を守る会

反捕鯨デモ、東京、2014年|写真提供者:海洋哺乳類を守る会

もしそのような役割として見れば、これらの団体は日本国民に調査捕鯨の科学的な信ぴょう性や透明性、また税金の無駄使いなどの問題を気付かせることに貢献できる。またクジラ類の肉に多く含まれている水銀の危険性を提示したり、衰退する漁師町でイルカ漁や捕鯨の代わりとなる産業を推奨することが出来るであろう。

何よりも、彼らは民衆を動かして、日本の水産庁や政治的協力者にも圧力を与え、それらの方向を捕鯨ナショナリズムから切り離すことが出来るだろう。また、他国の政府やNPO団体と協力しながら、日本近海でも国際水域でも、漁業保全に積極的に取り組むことも出来るはずだ。

「私にとっては、ただ”イルカが可愛い”からというだけではなく、イルカを守ることは海を守ること。そして、海を守ることは私達を守ることということだからです。」と山口たかよさんは彼女の大きな視点を話す。

日本政府と外国人活動家団体との対立の泥沼から抜け出して、これらの目標を達成するためには、日本の活動家グループは連携をとる必要がある。一緒に活動することで大きな団体になり、より多くの活動資金を得て、国内外に影響をもたらせるようになる。こうなる為には、外国人活動家は対立的な言動を和らげる必要があり、その代わりに、もっと日本の活動家に資金やアドバイス、精神的な支援を提供したほうがいい。

ショーン・オドワイヤー 明治大学国際日本学部 准教授、It’s Not Just Mud NPO法人理事

http://edu.citiprogram.jp/members/mainmenu_japan.asp?strKeyID=BC8E2585-80C3-44F2-8EF2-FFDF9A8EAB89-6344681

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